私の腹水治療について

当院は、日本でも数少ない、腹水の治療をするクリニックです。
私、高垣は2008年からKM-CARTを提唱された松崎圭祐先生の勉強会、研究会に参加して許可を頂いて勤務先の病院で大量の腹水に対する腹水濾過濃縮再静注を開始しました。
そもそもの最初のエピソードを書かせていただきます。
ある日、私の外来にふらっと来られた患者さんが、腹水に苦しむ患者さんでした。
もう食事もできなくなり、ふらふらです。ひどい脱水と低栄養でした。
「あんたのところに行ったら、なんとかしてくれるって言われたんや!」
「え?誰に?腹水の治療なんて、なんにも無いんやけど・・・。」
患者さんは、誰に言われたのかも覚えておられず、なぜか私の外来に行くべし、と思っておられました。
そんな治療あったかな・・と調べますが、ウェブ上も新しい治療ができたという話はありません。
病院の医局で、片端から尋ねてまわると、ある先生がチラシをくれました。
それが、松崎先生のKM-CARTの第一回研究会のチラシだったのです。
いい予感があり、連絡して3日後に開催される勉強会に参加させていただきました。
会場でひと目見て、「これだ!この治療だ!」と直感した私は、写真撮りまくり、資料頂きまくりで必死になって治療方法を暗記して参りました。
今でも、松崎先生、ならびにCART研究会の学術的な交流に支えられる日々です。

そして京都に戻った私は、患者さんに連絡をして初回の治療を開始したのです。
最初は、スムーズに腹水を抜くことも難しかった・・・。
でもお腹がパンパンでご飯が食べられなくなって、餓死しそうになっていた患者さんが、笑顔で生活できるようになって、心から嬉しかったのを覚えています。
病院の治療って、胃カメラでも抗がん剤でも、たいてい痛いし辛い・・・それが腹水治療だけは楽になるのです。マスターして、本当に良かった・・。患者さんのためになる治療だと思います。

ちなみに腹水を抜くという治療は、病院だったら若い研修医が医療の練習で行うような、簡単だという扱いです。しかし、大量の腹水を1〜2回の穿刺で抜き切れるようになるのは、数え切れない経験が必要でした。今でも2回穿刺させていただくこともあります。
ありがたいことに、9割以上の患者さんで1回穿刺するだけで、10リットルでも20リットルでも抜けるようにはなりました。
腹水、胸水穿刺は本当に深いのです。

さて、この患者さんも半年がすぎて、1週間に一度の腹水治療で無事に生活できるようになりました。
そんなある日・・・
「センセイ。もっと腹水減らへんの?」
「え?腹水が減るようには・・できないよ・・」
「なんとかしてよ〜。あんたのところにきたら、なんとかしてくれるって言われたんやで!」
それはいったい誰なのか?謎の助言のおかげで、この患者さんと次のステージに進むことになりました。
抗がん剤の併用です。
この患者さんは抗がん剤がとにかく嫌で、もとの病院の抗癌剤治療を断ったら、外来自体を止められていたのです。本当に、大反対でした。
でも、癌を消すわけにはいきませんが、病気の進行にブレーキを踏めるのは、抗がん剤しかありません。説明して、話し合って、通常の半分以下ならと、しぶしぶ少量での抗癌剤治療を許してくれました。
そして、この治療は奏功しました。
6リットル毎週溜まる腹水が、1リットル、また1リットルと減り始め、最終的に腹水穿刺がいらなくなりました。患者さんの治療は腹水にかわって、抗がん剤を週に一度点滴するだけになったのです。
この経験も、後に銀座通り並木クリニック 三好先生の少量抗癌剤治療への出会いにつながっていきます。

この方は深刻なステージの癌でしたので、かなり後になって、もとのご病気が進行して亡くなられました。元気な時には、旅行も外食も、家族との生活も、やりたいことは全部できたと笑顔で話してくれました。

この患者さんとの経験が、今でも私の背中を押してくれています。
腹水治療は、腹水が無くなってもとに戻るものではなく、繰り返し腹水を抜いていく治療です。そんなこと意味がない、というご意見もあります。
でも、私は腹水が無い自由な瞬間は、人間にとって大切なのを、治療を通じて感じております。
当院では、腹水治療と、少量の化学療法をそれぞれ行っています。
腹水でお困りの方は、ぜひご相談くださいませ!